月宮天子―がっくうてんし―
「クソッ!」


海は悪態をつくと、警棒を投げ捨て、素手で構えを取った。だが、ゴリラは顔を押さえて屈み込んでいる。どうやら、効き目はあったらしい。


「愛子ちゃん、あのお巡りさんを!」


海の指示で愛子は佐々木警部に駆け寄った。

愛子は横たわる警部の呻き声で、彼が生きていることを確認する。


「お巡りさん! しっかりして、目を開けて――逃げるのよっ!」


そのとき、海も警部の側にやって来た。愛子を庇うように後ろに立つ。


「大丈夫かっ! でも――東京ってこんな化けモンが出るんだな。知らなかった」

「こんなときに何ボケてんのよ! 普通は出ないわよっ……こんな」


引っ込んだ玉が下りて来たのか、腹の突き出た化け物が唸り声を上げて海らに飛びつこうとした。

そこに救いの手が……なんと巡査ゴリラである。

ふたり、いや、二匹はがっぷり四つに組むと、力比べのように睨み合う。


「餌を……取り合ってるのかな?」


二匹の様子を見た愛子は、恐ろしいことをサラリと言った。


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