月宮天子―がっくうてんし―
愛子は教科書を思い出していた。

何世紀か戻れば、人間は皆こんなものだったのだろう。ジャワ原人とか北京原人とか……でも、進化は、いや退化は止まらない。

見る見るうちに、その顔は黒く硬い毛に覆われ、ゴリラとかオランウータンに近くなる。


「きゃあぁぁぁぁぁ!」


愛子は悲鳴を上げたのだった。


佐々木警部は拳銃を抜こうとするが、指が滑ってホルスターのボタンすら外せない。

そこを肥大化した有働巡査の腕が襲い掛かり……佐々木警部は、山門横に植えられたビワの木に叩きつけられ、そのまま倒れ込む。


「お巡りさんっ!」


叫び声を上げた愛子のほうを、ゴリラと化した有働巡査が振り返った。


「い、いやっ……来ないで」


どうやら最初に拾った警棒を、愛子はしっかり握り締めていたらしい。目を瞑ったままブンブン振り回す。

そのとき、海が愛子の悲鳴に駆けつけてくれた。

海は警棒を横から奪い取り、右手で構える。ゴリラの攻撃をかわしながら、一気に間合いを詰め、体重を乗せてゴリラの眉間に叩きつけた。

アルミ合金製の警棒は一トンを超える負荷にも耐えられるはずだ。


しかし、なんとその警棒がグニャリと曲がった。


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