月宮天子―がっくうてんし―
「友達って……男かもよ」


姉のことだ、おそらくは確信犯だろう。

愛子はそう思ったが、母はサラリと言った。


「殺人犯に襲われるくらいなら、彼氏と一緒に居てくれたほうが母さん安心だわ。直ちゃんは二十歳過ぎてるんだし……。でも、愛ちゃんはダメよ。まだ、高校生で……あら? 誰か居るの?」

「えっ……あ」


母はガラッと和室の襖を開けて中に入った。もう海の着替えが済んでいてくれたらいいけど……愛子はそんなことを考えたが。


「ああ、片付けしてくれてたのね。あら、まだ布団を乾してなかったの? 明日には来られるのよ。乾しておいてって言ったでしょ。もう、愛ちゃんたら」

「え?」


室内に海はいなかった。どこへ行ったのだろう? 愛子は首を捻る。外にはまだ、警官が山のようにいるはずだ。


「あらやだ、だめじゃない、もう」


母は窓の鍵が開いていることに気付き、文句を言いながら慌てて閉めている。


そのとき――ピン、ポーン!



一分後、愛子は玄関で海と対面していた。


「愛ちゃん、こちらがお父さんの教え子で、瀬戸内海さん。せとないかい、じゃないのよ、せとうちかいさん、ね。瀬戸内さん、次女の愛子です。受験生なのよ、暇があったら勉強見てやってくれるかしら」


母はニコニコして海に話しかけた。そして海も、


「はじめまして、愛ちゃん。どうぞよろしく!」


やはり、百均で買ったであろう無地のTシャツを着て、なんとかグリーンの海は満面の笑みを浮かべたのだった。




~2章につづく~


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