月宮天子―がっくうてんし―
  ***

 
(わたしってば、どうしてこんなに素直じゃないんだろう?)


愛子はため息を吐きつつ、高校へ向かう。

母が「お婿さんに」とか言い出したとき、姉の直子のような反応をするのが、モテる女の基本なのだろう。

それに、愛子は海のことを誤解していた。

幼稚園の先生は九月からなのに、父に頼まれて早々に上京して来たのだと言う。事件の犯人が捕まれば、海は西園家を出て、ひとり暮しをする予定だと知った。 


「……暑い……」


夏休みに入った途端、うだるような暑さだ。

都心と比べてこの辺りは、蝉の声が機関銃のように降り注ぐ。終業式は終わったけど、受験生に夏休みはない。愛子は毎日補習に通って、塾にも行かなけりゃならない。化け物が出たって受験がなくなる訳ではないのだ。

でも……もし学校で被害が出たらどうなるのだろう。

佐々木警部の言葉じゃないけど、もしまた奴らが現れたら、海が変身して戦うんだろうか。あの、緑怪人になって……。

愛子はさすがに『怪人』は可哀想かなと思い直す。

敵は動物だから『対、動物戦隊スーパーグリーン』いや、玉を拾って変身するんだから『玉玉ヒーロー・リョクタマン』――愛子は自分のセンスのなさを自覚して、名前を付けるのを諦めた。


そのとき、ふとした拍子に愛子の目に警官の制服が映った。

これまでは、千並街道を西に折れ、例の駐在所の手前の信号を南に渡って真っ直ぐ行くのが、高校への通学路だった。でも今は、街道を東に折れ遠回りしている。


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