部長とあたしの10日間
保険、なんて。
そんなおいしい…もとい、都合のいいことできるわけないじゃない。


引く手あまたな後藤さんをキープしてるなんてバレたら、あたしはきっと女子社員の目の敵にされてしまう。
これ以上女性たちの逆鱗に触れたくない、ていうか。


「今あたしを連れ出したのって、もしかしてこの話をするためですか?」


後藤さんは少しばつが悪そうに頭を掻くと、言い訳がましく続けた。


「そのうち、きちんと告白するつもりだった。
叔父貴とあまりに仲良さそうにしてるから、嫉妬で最悪のタイミングになったけど」


うわ。
後藤さんはさすがだ。
こんな恥ずかしいセリフもさらっと言えちゃうんだもの。


「───でも、後藤さんはいいんですか?
それじゃ、部長のお下がりじゃないですか」


だって後藤さんは就職のときにコネを使わなかったり、今も親戚関係を隠してるくらいなんだから、叔父さんである部長に少なからず対抗意識を持ってるんでしょ?
部長に振られたあたしを恋人になんてしたら、余計に劣等感を感じるだけじゃないの?


そんな生意気な口をきいたあたしに、後藤さんは不敵な笑みを讃えながら言った。


「いいよ。
だって、それは俺の方が叔父貴より見る目があるってことだから」


まずい。
こういう強引な男、結構タイプなのよね。
なんて、自分に自信のある人特有のドヤ顔にぐらつきそうになりながら。


あたしは長いことご無沙汰だった、モテ期の再来を実感した。
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