部長とあたしの10日間
その後、あたしたちは駅近くのスペインバルに向かう。


会社から近すぎない立地条件のおかげか、うちの社員が殆ど利用しない隠れ家的なその店はあたしたちの行きつけ。


買い物に付き合わせたのと、昨夜のイタリアンをキャンセルさせたお詫びを兼ねて、今夜はあたしのおごりになってしまった。


給料日前の身にはちょっと厳しいけど、あまり趣味でないマイナーバンドのCDやライブチケットを、これからは買わなくていいと思えば安いくらいだ。


てっきり沙織から質問攻めに遭うかと思って構えていたけど、ビールを手にした彼女の口から部長の話題が出たのはほんの最初だけで。


営業部の後藤さんにはどうやら本命がいるらしいだとか。
誰と誰が社内不倫をしているだとか。
実際のところ、ゴシップ好きの彼女の興味はそれ以外にもあるらしい。


美味しい料理とお酒を堪能したあたしたちは、ほろ酔い気分で店を出た。


「あれ、葛城主任じゃない?」


駅の時計広場を通りかかったとき、沙織が声を上げた。
沙織の指を辿ると、確かに葛城主任の姿があった。
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