アンラッキーなあたし
「さくらさんも食べるでしょ?」

「あっ…。あたしは…」

いかにも幸福そうなカップルを目の前に、あたしは、ただ立ち尽くすことしか出来なかった。

「桜庭も食えよ?めちゃくちゃ美味いから!」

千葉はくたくたになった白菜と、メタメタに溶けた豆腐を嬉しそうに何度もお代わりしてる。

「うまいよ、弥生」

「本当?」

「ああ、本当に」

嫌だ。美味いなんて言わないでよ。そんな幸せそうな顔しないでよ。そんなぐちゃぐちゃな鍋のどこがおいしいのさ。あたしなら、もっと手の込んだものを作ってあげられるよ。ねえ、千葉…。

「どうした桜庭。早く座れよ?」

千葉に声を掛けられて、あたしは、

「あたしは平気!食べて来たから!ちょっと仕事の続きあるからお先に失礼」

「さくらさん、これからはヤヨも家事するから安心してね!」

張り切る弥生に微笑み返し、あたしは空腹でペタンコになったお腹を抱えながら寝室に消えた。

ドア一枚隔てて、千葉と弥生の楽しそうな笑い声が聞こえる。あたしは布団にもぐり、ギュッと耳を塞いだ。

唯一、弥生に勝てると思っていた料理。けど、あたしが作る、美味しくて完璧な料理よりも、弥生がギラギラした爪で作る季節はずれの鍋料理の方が、千葉にとってはご馳走なのだ。

もう、あたしがしてあげられる事は、何もない。あたしの居場所は、もうないのだ。
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