アンラッキーなあたし
ここへ勤めて、初めて定時ぴったりに、あたしは会社を出た。

誰にも惜しまれず、悲しまれない、清々しい最後だった。

胸には希望。カバンには盗んだトイレットペーパーとドリップコーヒー。

足取りは軽やかだ。

帰り際、千葉とすれ違ったとき、やつは何か言いかけた。けれど、あたしは聞こえないふりをしてダッシュした。シカトしてやったのだ。

だって、千葉のせいでクビだ。

根深いあたしは、千葉がちくったことをずっと根に持っていた。

解雇宣告をされた日から、あたしと千葉は口をきいていない。千葉はあたしにお茶を頼まなくなった。恵梨菜が入れたどろどろのお茶を飲む千葉を見て、あたしは、ざまーみろと思っていた。

アディオス、千葉。

腐った果実のような色した夕日に向って、あたしは思い切りスキップをした。

人生、これからだ。
< 93 / 354 >

この作品をシェア

pagetop