《爆劇落》✪『バランス✪彼のシャツが私の家に置かれた日』

カーディガンの女を見てテーブルに頭をつけた。

「ほんと、ごめんなさい。帰ります、俺……ここにいるべきじゃないんで」

椅子から立ち上がり、吉田に会費を払う。
吉田が小声で俺をたしなめる。
「なんですか? 話が違いますよ。もう少しいてくださいって、ね?」

「いや、帰る。もう合コンには呼ばないでくれよ」
会費をテーブルに置いて帰ろうと背中を向けた俺。


任務も果たさずに逃げ帰る俺になんか、聞こえても聞こえなくても関係ない雰囲気で自分の仲間に話しかける吉田の声が俺を追いかけてきた。

「なんだよ。ほんとノリわりい、あの人。顔が良くなかったら、声なんかかけねえつうの! 先輩ヅラして、なんか勘違いしてんじゃねー? 顔だけのくせして」
後ろからさっきまで可愛い後輩だと思っていた奴の悪魔みたいな含み笑いの声が聞こえた。


一瞬だけ足を止めたが、振り返るのはやめた。殴りたくなって拳を握り締めていた。

最悪だ。あんな奴をある意味凄い後輩だと思っていた俺って浅い男すぎるだろ。


顔だけの奴。
あいつが言っていた事は一概に否認できない。俺に寄って来る男も女もみんな俺の顔しか見ていない、そう思えて雨の降る前に空を覆いだす暗雲みたいに苦々しい思いが俺の中にどんどん広がっていった。



店を出ると暗い夜空を見上げ、届くはずの無い大きな空へ白い息を吐いた。
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