《爆劇落》✪『バランス✪彼のシャツが私の家に置かれた日』

合コンに戻った俺は、後輩の吉田に頼まれていた任務を忘れてグラスワインをあおった。

「飲み過ぎじゃない?」
心配顏したカーディガンの女をチラリとみる。名前を聞いたばかりだが、今さっき年上の彼女に会ったことで、すっかり忘れてしまった。


「あんたに関係ないから」

「え?」
カーディガンの女は、さっきまでの俺と態度が違うと思ったようで表情を固くした。

この人は、別にどこも悪くないんだ。悪いのは、ふがいなくて情け無い俺。




後輩の吉田に最近良く誘われるようになった合コン。この前の合コンも幹事は益岡さんだったが、俺は人数そろえの役割だったらしい吉田から誘われたのだ。

見た目は平凡だが口の達者な吉田は、会社ではムードメーカー的な存在で上司にも可愛がられている。口が上手いのは、うまく世渡りする上で不可欠な才能だ。そんな吉田に頼られることを、なんとなく心地よく感じていたのは確かだ。


『今夜も合コンに来て下さいよ。会社関係は三浦さんしか呼んでないんで。益岡さんには、コレでお願いしますよ』人差し指を立てて口に当てた吉田。

『明日の昼奢りますから……。ね、顔出し程度でイイっすから』と誘われて可愛い後輩のことをむげにもできずに参加すると決めた。

『三浦さん、いつもの頼みますよ』と、いつものって後輩のくせにオーダーまで言ってきた。

『いつもの』とはブスとか年増の女がいたら、いらないから排除してくれってお願いだ。

そんなしょーもないお願いを今まで何回かきいてきた俺こそ、本当にしょーもない。

『ボランティアだって思って下さいよ。合コンで無視されて、早く帰りたいモードになる女達をお持ち帰りしてやるなんて俺って親切だなぁって』ともっともらしく口の達者な吉田に丸め込まれていた。

今までお持ち帰りした女とは、二件目に飲みに行って一時間ほど話して帰る。それがパターンだった。それ以上の関係になる事もなければ連絡先も聞かない。別に俺にとっては、たいして意味のあることでも得になる事でもなかった。



しょーもない俺が、今やっとわかった事がある。

俺は馬鹿な奴だ。
人見知りだし人付き合いも悪い。
だから、どこかで吉田みたいな口が達者で人付き合いの広い男に憧れていたんだ。

俺とどこか違う吉田みたいな後輩に頼られることに正直気分を良くしていた。親しげにされることが凄いことみたいな気になっていたんだから、情けなくて始末が悪い。とんだ誤解も甚だしいってもんだ。



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