サラダ・タムリンシュ
ある日、森のなか

グリムせんせい、あのね、


自分のモノだと思っていた真っ赤なイヤリングが、他の人の落としモノだったから、
元に戻しにいこうと、クマさんのいる森に出掛けたよ。


すると、
切り株の上に、【 リンゴ (種類;サンつがる・ふじ等。ジョナゴールドではない。)】が一個と半分、置いてあったよ。
傍らに色白の女性が倒れていたけど、気にしなかったよ。
そこへ通りかかった赤ずきんが、【人魚姫から貰ったという海老】を三匹のコブタに奪い取られそうになっていたので、

「美味しいエビフライの作り方を仕入れたから、あとから四人でウチに来るといいよ! ご馳走するよ!」

と提案したんだ。
それで四名には、カマヤツと表札の出た、見ず知らずの家を教えておいたよ。
イヤリングは切り株の上にでも置いておけばクマが見つけて、
またナンパの材料に使うだろうと思ったんだ。


リンゴと海老は、心臓を奪われてしまったという猟師の、内縁の奥さんに渡したら大変喜んでくれたよ。
貧しい暮らしの中でも、酒浸りになっていた上、ヤケ食いに励んでいた奥さんは、中性脂肪が高いらしいんだ。
そんな美保さんはおもむろに包丁を握ったんだ…。

リンゴを厚さ5ミリほどの一口大(銀杏切等)に切り、ボールに入れたの。
塩をふたつまみ、胡椒ひとつまみ、オリーブオイル小さじ2~3、ワインビネガー小さじ1~2を加え、なじませておいてたよ。

大ぶりの黒虎海老なら6尾、小ぶり黒虎なら8尾で、足をもぎ大方火が通るまで茹でてた。
お湯からあげた海老の殻を剥き1.5~3センチほどに切ったの。そして、ひとつまみの塩をふってたよ。
軽く和えたら、塩と化学調味料を少々振りかけたの。
温めたフライパンにオリーブオイルを少々いれて、その中央に先ほどの海老たちを加えてた。酒を少々とワインビネガーをもっと少々な感じで加え、軽く炒めたんだ。
炒めた海老を軽く冷ますなり冷まさないなりして、リンゴのボールに加えてた。
胡椒を強めに振りかけザックリ和えて、塩を少々、仕上げにオルガノをなんとなく振りかけたんだよ。

そこへ、お手洗いを借りたいという、オバさんが駆け込んできたんだ。
(本当はお婆さんだという風貌だけど、女性は歳を重ねても女性なので、オバさんと呼ぶことにしたの。さすがにお姉さんとは呼べないけどね。)
オバさんは洋服のポケットへ、昼間倒れてた女性が握っていたドス黒い林檎を、無理ヤリつっこんでいたよ。
だけど、そんなことはお構いなしに、美保さんはタムリンシュサラダをおちょぼくちで食べていたの。

お手洗いから出てきたオバさんは、
「お好みで」
と言いながら、烏賊海老等の塩辛やミジン切りにした胡瓜の皮などを勝手に加えて、差し出してくれやがったよ。
「このアレンジは、人によりけりな味だな。」
と思ったんだけど、言葉にも出していたみたい。
少し顔色を変えたオバさんはポケットの林檎を差し出してきたけど、
「それでジャムを作りたいわ!」
と言う、窓から覗き見していた灰まみれの少女にくれてやったよ。
「お姉様たちは、アプリコットジャムしか食べないの。アップルジャムも美味しいのに、どうしてかしら。とりあえず私の分だけなら1つで充分なの。」
と嬉しそうに無駄口をたたいて、少女は帰っていったんだ。
早く掃除をやりに帰れ。


それから不服そうな林檎オバさんと入れ替わりに、
美保さんの知り合いだというオオカミのカマヤツさんがドアから入ってきたんだ。
美保さんは手慣れた手つきで、カマヤツさんにサラダをよそったけど、
カマヤツさんは、
「せっかくだが、お腹がいっぱいなんだ。」
と申し訳なさそうに言って、大きなベットに横になってしまったんだ。
一人分程余ったサラダは小皿に盛られ、キンポウゲの鉢植えの前に供えられてた。
どんな想いが込められた御供だか知らないけど、結局はアガパンサスという名の飼犬に食われてしまうに決まってるよ。まだ躾がなっていないんだと思う。


そうしているうちに、夜が明けたの。
「これはさすがに、おいとましよう」
と立ち上がって、軒先の物干し竿に目をやったらね、
物干し竿には、Mと刺繍入った桃色のガウンと、Kと刺繍が入った真新しい紫色の大きなガウン、そして猟師のタモツさんが使っていた水色のガウンと同じ柄の雑巾が、かけてあったんだ。

色々と気のせいだと思いながら、家路についたの。



余談だけど、美保さんは前に小田真紀という名前の猫を飼っていたらしいよ。なんで犬をカタカナの名前にしたのかは分からないけど。

それでね、翌朝には、海老も何もかも、
全てのたんぱく質が、タモツさんの家からなくなっていたらしいよ。
おまけに、お隣の六匹の子山羊も消えてしまっていたんだって。
一匹だけ助かった子山羊は、暇をもてあましたらしいんだ。
とりあえず、誘拐騒動でテンヤワンヤな家を大時計の秘密扉から抜け出したんだってさ。
それで、灰まみれの少女が住む館へリンゴのパンケーキを食べに行った、と小耳にはさんだよ。大耳がどこにあるかは知らないけどね。

それからの数日、外では色々あったらしいんだ。
でも、花粉症なので家の中で勉強をして過ごしていたよ。

(ほとんどおわり)



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