隣に座っていいですか？

私は息を上げながら
枯れた花を彼女に叩きつけた。

「乱暴な人ね」
彼女は不敵に笑い
私の顔を気の毒そうに見つめる。

「紀之さんの事が好きなの？」
からかうように言われた。

「残念ね。彼が選んだのは私よ。それにね……」
微笑み
彼女は私の耳元で囁く

「身体の相性も最高なの」

今まで生きてきた中で
こんなに最低な気持ちになったのは初めてかもしれない。

「桜ちゃん！」
私は桜ちゃんの名前を叫び、その小さな身体を抱きしめた。

「いくちゃんの家に行こう。こんなとこにいたらダメになる。一緒に行こう」

絶対『うん』って即答してくれると思っていたら、返事がない。

そっと顔を見ると

「さくらはいけません」
涙をこらえて桜ちゃんは言う。

「さくらはお父さんをおいて、いくちゃんのおうちにいけません」

頭をぶん殴られた気分。

「またどうぞ」
婚約者の高笑いに見送られ
私は泣きながら靴を履き、家に行こうとすると

「郁美さん」

丁度田辺さんが帰って来て
私の顔を嬉しそうに見るもんだから

もう
腹が立って腹が立って

その端整な顔に

一発
思いきりグーでアッパーをかまし

豪邸を出て行った。