隣に座っていいですか?
「結婚して下さい」
田辺さんは腰を下ろし
椅子に座っている私を見上げ
優しい顔でプロポーズ。

だから

「はい」って返事をしたら

「お前ら付き合ってたのか?」と、厨房の中からお父さんの冷静なる声が店に響いた。

え?
あ……ここって店だった。

土曜日の昼下がり
しっかり店だったし

うちの両親揃ってるし

みんな居るしっ!

ご近所の広告塔である
恵子おばさんと自治会長の目が光る。

今さら
血の気が引いてきたわ。

「いつからだ?」
声が怖いよお父さん。
田辺さんは蛇に睨まれた蛙。

そしてその他大勢は
なぜかニヤニヤ笑ってる。

私は田辺さんとお父さんを交互に見ていた。
お父さんは余裕を見せながら
いつもの怖い顔を崩さない。

そして
田辺さんは必死に言葉を探してる

探して探して

出た一言は

「まだ付き合ってません」

だった。

私は「あぁ?」って驚くお父さんの顔をチェックしてから、田辺さんの顔をまじまじと見ると

「そうですよ。郁美さん、僕たちまだ……改めてお付き合いしてないんです」
何度もうなずきながら
田辺さんはのん気に微笑む。

言われてみたら
そうでした

お付き合いの前に

プロポーズかい?
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