EVER BLUE
あれから、ベッドの上で色々考えた。
今までの経緯だとか態度だとかではなく、これからどうするか。どう事を運んで、どう上手くやり過ごすか。
気付けば朝日が昇っていて、終わりかけだった課題は、終わりかけのまま机に投げ出されていた。
「あれ?おはよ」
「おはよ」
リビングへ下りると、姉の有紀がパジャマ姿のまま朝食の準備をしているところだった。
「どっか行くん?」
「彼女と映画」
「こんな時間から?」
「いや。その前にちょっと公園」
そう告げ、グラスに注がれた麦茶を一気に飲み干して晴人は家を出た。
数時間前に訪れた時は真っ黒だった公園は、朝の光を浴びて彩りを取り戻している。その中に、ぽつんとベンチに座った恵介の姿を見つけ、晴人は大きなため息を吐く。
「夜聞く言うたやろ」
「せーと…」
「泣くな。男に泣かれても嬉しないわ」
くしゃくしゃと恵介の頭を乱暴に撫で、立てと促す。反応もせずに俯いて泣く恵介の腕を引き、晴人は再び家に戻った。
「おかえりーって恵介!?」
「公園に捨ててあったから拾うてきた」
「は?何泣いてんの、その子。どないしたん?」
「知らん。9時になったら呼んで」
「あぁ、うん。わかった」
心配そうに恵介を見つめる有紀を押し退け、晴人は自室のある二階へと恵介を引っ張り上げる。
「有紀、お茶ちょうだい」
「はいはーい」
いつもならば「自分でやれ!」とどやす有紀も、恵介のただならぬ様子に素直に晴人の頼みを聞き入れてやることにした。
「開けるよー」
「どーぞ」
お盆から二つのグラスを受け取ってテーブルに置き、居座ろうとする有紀を追い出して晴人はベッドに腰掛けた。
「せーと、あのな…」
「んー?」
知らぬ顔をして、晴人は伸びをする。それを正面に見ながら、恵介はガバッと勢い良く頭を下げた。
「ごめん」
だいたい予想がついていた晴人は、それでもクールを決め込んで財布の中から二枚のチケットを取り出して恵介の前へと差し出した。
「お前が行った方がええんちゃうんか」
「いやっ…」
「俺まだ課題終わってへんねん」
「もう終わるって言うとったやん」
「もう終わるけど、まだ終わってへん」
机の上に置いたままにしている課題を指し、恵介の視線を誘導する。その間に一度くしゃりと顔を歪ませ、深呼吸をして恵介の前へと腰を下ろした。
「言い訳はええ。事実だけ話せ」
もうわかっている。
けれど、どうしても恵介の口から告げてほしかった。
酷かもしれないけれど、そうしてもらわなければ、自分はずっと恵介を責めてしまう。そう判断してのことだった。
「りんと…ヤった。ごめん」
わかった。と一言だけ押し出し、ふぅっと息を吐いて晴人は天井を見上げる。
思ったよりキツイ。と心の中で一人ごちたとて、その事実は変わらないのだ。
「で、どないすんねん」
「どないするって…」
「ヤるだけヤって終りか?」
「それは…」
「せやから夜にせぇ言うたんや。そんなこと聞いた後で抱け言われても、さすがの俺でも無理やろ」
「せーと…」
再び瞳を潤ませる恵介の肩を掴み、晴人は自分に言い聞かせるようにゆっくりと言葉を紡いだ。
「付き合う女は変えれる。でも俺は、お前を他の奴と変えるつもりはない」
許す。と、そう言ったつもりだった。それが伝わるかどうかは別として、自分の親友は恵介だけ。それに変わりは無い。たとえ何があろうとも。
「これ、お前が行けや」
「でも…」
「りんには、俺に話したこと黙っとけよ」
「そんなんっ!」
「ええから。上手いこと別れたるから」
自分が悪かったのだ。
晴人はそう自分に言い聞かせる。それがわかっている恵介は、晴人の両腕をグッと握って俯いた。
「後は上手いことやれよ?さすがに手出し出来んぞ」
「せー…と…」
「泣くな。俺は気にしてへん」
嘘だ。
晴人は晴人なりに鈴音を大切にしてきた。面倒くさいと思うことは多々あったけれど、それでも別れずに付き合ってきた。それが何よりの証拠で、恵介もそれを十分承知している。
「ごめん…せーと、ごめん…」
「わかった、わかった」
何度も言葉を詰まらせながら謝る恵介を見下ろし、晴人はグッと眉根を寄せる。
ここで許してやらなければ、自分が上手く立ち回ってやらなければ、ナイーブな恵介は潰れてしまう。そんな姿は見たくない。友として、唯一無二の親友として。
世話の焼ける奴だ…と、下げられたままの恵介の頭に、晴人はコツンと顎を乗せた。
「気にすんな。お前の方がりんと上手くやってけるわ」
失いたくない。と、恵介に関してだけはそう素直に思える。そのためならば、代償はどんなものだって構わない。たとえそれが自分の想いだったとしても。
「ごめ…ん…ごめん…」
嗚咽混じりに途切れ途切れに謝る恵介が顔を上げたのは、優佳が時間だと呼びに来た時だった。
今までの経緯だとか態度だとかではなく、これからどうするか。どう事を運んで、どう上手くやり過ごすか。
気付けば朝日が昇っていて、終わりかけだった課題は、終わりかけのまま机に投げ出されていた。
「あれ?おはよ」
「おはよ」
リビングへ下りると、姉の有紀がパジャマ姿のまま朝食の準備をしているところだった。
「どっか行くん?」
「彼女と映画」
「こんな時間から?」
「いや。その前にちょっと公園」
そう告げ、グラスに注がれた麦茶を一気に飲み干して晴人は家を出た。
数時間前に訪れた時は真っ黒だった公園は、朝の光を浴びて彩りを取り戻している。その中に、ぽつんとベンチに座った恵介の姿を見つけ、晴人は大きなため息を吐く。
「夜聞く言うたやろ」
「せーと…」
「泣くな。男に泣かれても嬉しないわ」
くしゃくしゃと恵介の頭を乱暴に撫で、立てと促す。反応もせずに俯いて泣く恵介の腕を引き、晴人は再び家に戻った。
「おかえりーって恵介!?」
「公園に捨ててあったから拾うてきた」
「は?何泣いてんの、その子。どないしたん?」
「知らん。9時になったら呼んで」
「あぁ、うん。わかった」
心配そうに恵介を見つめる有紀を押し退け、晴人は自室のある二階へと恵介を引っ張り上げる。
「有紀、お茶ちょうだい」
「はいはーい」
いつもならば「自分でやれ!」とどやす有紀も、恵介のただならぬ様子に素直に晴人の頼みを聞き入れてやることにした。
「開けるよー」
「どーぞ」
お盆から二つのグラスを受け取ってテーブルに置き、居座ろうとする有紀を追い出して晴人はベッドに腰掛けた。
「せーと、あのな…」
「んー?」
知らぬ顔をして、晴人は伸びをする。それを正面に見ながら、恵介はガバッと勢い良く頭を下げた。
「ごめん」
だいたい予想がついていた晴人は、それでもクールを決め込んで財布の中から二枚のチケットを取り出して恵介の前へと差し出した。
「お前が行った方がええんちゃうんか」
「いやっ…」
「俺まだ課題終わってへんねん」
「もう終わるって言うとったやん」
「もう終わるけど、まだ終わってへん」
机の上に置いたままにしている課題を指し、恵介の視線を誘導する。その間に一度くしゃりと顔を歪ませ、深呼吸をして恵介の前へと腰を下ろした。
「言い訳はええ。事実だけ話せ」
もうわかっている。
けれど、どうしても恵介の口から告げてほしかった。
酷かもしれないけれど、そうしてもらわなければ、自分はずっと恵介を責めてしまう。そう判断してのことだった。
「りんと…ヤった。ごめん」
わかった。と一言だけ押し出し、ふぅっと息を吐いて晴人は天井を見上げる。
思ったよりキツイ。と心の中で一人ごちたとて、その事実は変わらないのだ。
「で、どないすんねん」
「どないするって…」
「ヤるだけヤって終りか?」
「それは…」
「せやから夜にせぇ言うたんや。そんなこと聞いた後で抱け言われても、さすがの俺でも無理やろ」
「せーと…」
再び瞳を潤ませる恵介の肩を掴み、晴人は自分に言い聞かせるようにゆっくりと言葉を紡いだ。
「付き合う女は変えれる。でも俺は、お前を他の奴と変えるつもりはない」
許す。と、そう言ったつもりだった。それが伝わるかどうかは別として、自分の親友は恵介だけ。それに変わりは無い。たとえ何があろうとも。
「これ、お前が行けや」
「でも…」
「りんには、俺に話したこと黙っとけよ」
「そんなんっ!」
「ええから。上手いこと別れたるから」
自分が悪かったのだ。
晴人はそう自分に言い聞かせる。それがわかっている恵介は、晴人の両腕をグッと握って俯いた。
「後は上手いことやれよ?さすがに手出し出来んぞ」
「せー…と…」
「泣くな。俺は気にしてへん」
嘘だ。
晴人は晴人なりに鈴音を大切にしてきた。面倒くさいと思うことは多々あったけれど、それでも別れずに付き合ってきた。それが何よりの証拠で、恵介もそれを十分承知している。
「ごめん…せーと、ごめん…」
「わかった、わかった」
何度も言葉を詰まらせながら謝る恵介を見下ろし、晴人はグッと眉根を寄せる。
ここで許してやらなければ、自分が上手く立ち回ってやらなければ、ナイーブな恵介は潰れてしまう。そんな姿は見たくない。友として、唯一無二の親友として。
世話の焼ける奴だ…と、下げられたままの恵介の頭に、晴人はコツンと顎を乗せた。
「気にすんな。お前の方がりんと上手くやってけるわ」
失いたくない。と、恵介に関してだけはそう素直に思える。そのためならば、代償はどんなものだって構わない。たとえそれが自分の想いだったとしても。
「ごめ…ん…ごめん…」
嗚咽混じりに途切れ途切れに謝る恵介が顔を上げたのは、優佳が時間だと呼びに来た時だった。