ライラックをあなたに…
一颯くんが言葉を失う程、私の瞳からは涙が溢れていた。
侑弥さんを目の前にしていた時は、無意識に気が張っていたらしい。
無理して気丈に振る舞ったツケが今頃現れた。
歩み寄った彼は鞄を足下に置いて、私の背中をそっと擦る。
「声を出していいんですよ。我慢しなくていいんです。泣きたい時に泣かずに、いつ泣くんですか。辛い時は思い切り感情を表に出していいんですよ」
彼の言葉が胸に響く。
侑弥さんと付き合うようになって、色んな事を我慢して来た。
周りの女の子たちが彼氏の話を楽しそうにするのを黙って聞いて、嬉しそうに写メを見せるのを羨ましく思いながらそれを眺め、街ですれ違う恋人たちが幸せそうに肩を並べて歩く姿に未来の自分を思い重ね、社内で仲良く話をしている彼と女子社員を嫉妬しながら見てみぬフリして。
そんな我慢だらけの生活を5年も耐えて、漸く倖せな人生を送れると思っていたのに……。
この5年間の努力は一体なんだったの?
彼にとっては『ごめん』と、たった一言で割り切れる関係だったの?
自分1人舞い上がって、倖せだと思い込んで勘違いしてたのだろうか?
苦しくて悲しくて怒りが込み上げて、不安と恐怖に押し潰されそうだった。