ライラックをあなたに…


つい先程までそこに存在していた筈のとあるモノ。

女性がその場所にそれを輝かせているという事は、少なからず幸せな生活を送っていると誰もが皆そう思うだろう。


――――――左手薬指に輝く愛の印を。



昨日は確かに存在していた。

いや、違う。

今日の日中だって、彼女はそれを身に着けていた。


別にチェックしていたという訳でなく、彼女とあの男とのやり取りを知っているだけに違和感があっただけ。


あの男は彼女をゴミのように簡単に捨てたけれど、彼女の方はあの男に対して気持ちがあるだろうから。


彼女は無意識でそれをしていたのだだと思うが、何度も何度も右手でそれに触れていた。


その行動に気付いた俺だったが、敢えてそれには触れなかった。

彼女をこれ以上苦しめても何の得にもならないから。




昨夜の電話といい、先程の態度といい、あの男はまだ彼女に未練がある。

赤の他人の俺でさえ、それを痛々しいほどに感じ取れた。



結婚を約束した恋人を捨ててまで、別の女と結婚する。

そういう事を決断した男が、捨てた恋人を『まだ俺の女』だと言い張るあの男が許せない。



だから……―――………


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