ライラックをあなたに…


シャワーを浴びながら、何て声を掛けようか必死に模索する。


けれど、いい言葉が見つかる筈もなく……。

結局、彼女から言い出すまで様子を見守るのが1番だと結論に至った。


抉らなくてもいい傷を他人の俺が興味本位で抉っていい訳ない。

それに例え、彼女がもがき苦しんで辛そうにしていたら、その時、そっと手を差し伸べても遅くない。


俺が自分勝手に決めつけてはいけない問題なのだから。




シャワーを浴び終えた俺は髪をタオルドライしながらリビングへ行くと、


「一颯くん、ちょっといいかな?」

「ん?」


やっぱり俺から聞かなくても、彼女はきちんとしていた。


真剣な表情でラグの上に正座している彼女。

俺はその左斜め横に腰を下ろした。


そして、彼女の方へ視線を送ると……。



「あのね。今日の朝礼で、私が寿退社する事が発表されてね、来月末付で正式に退職する事になったの」

「………うん」

「でね、私とあの人の関係を唯一知っている、あの人の上司が掛け合ってくれて、有給で消化しきれない残りの出勤日を介護休暇扱いにして貰える事になったの」

「それって、会社に行かなくていいって事?」

「そう。だから、今週いっぱいで退社する事に……」

「………そうなんだ」


< 176 / 332 >

この作品をシェア

pagetop