ライラックをあなたに…
居酒屋『源ちゃん』で鉢合わせしてしまった寿々さんとアイツ。
宴会にアイツが遅れて現れただなんて……。
悪縁としか思えない。
けれど、彼女の言葉でアイツも納得しただろう。
もう、お前には『愛情』の欠片も無いという事を……。
俺は知っているんだ。
寿々さんの心境の変化に。
俺のマンションに住み始めの頃は、夜中に何度も魘されていた。
しかも、寝言で奴の名前を何度も口にしていて……。
薄っぺらいドア越しに聞こえて来る彼女の言葉に、何度も俺の心は締め付けられた。
あんなにも辛い思いをして、漸く未来を見据えて頑張ろうとしているのに、いつまで彼女は苦しまなければならないのか。
それほどまでにアイツの事を愛していたということに、苛立ちを覚えた。
寝ている彼女を起こして、悪夢から救ってやりたい。
心の呪縛から解いてやりたくて、俺は何度も彼女の部屋とを隔てるドアに手を掛けた。
でも、1度たりとも行動には移せなかった。
これは、俺がどうこうしていい問題では無い。
彼女が自分の力で立ち直らなければ、何の意味も無いから。
そんな彼女が漸くアイツから解放された事に、俺は心の底から安堵と高揚感で満たされていた。
だが―――――。