ライラックをあなたに…


「お母さんが掛けてくれてた保険のお金、カフェ学校に通うのに使いたいの。……ダメかな?」


前に母親から電話で教えて貰ったお金の事。

1人娘だからと、父親が掛けている他に母親がこっそり掛けていてくれたらしい。


破談になって、仕事も辞めて、住む所も失った私に母親が使って欲しいと用意してくれたお金。

改めて、母親という存在の大きさに気付かされる。

私もいつか、母親のようになれるだろうか?



母親の顔を窺うように、俯き加減の視線を持ち上げると。


「当たり前じゃない。寿々が必要な時にと思って掛けてたんだから」

「えっ?」

「行きたいんでしょ?………カフェ学校」

「………うん」


どこまでも優しい眼差しを向ける母親。

躊躇う娘の背中を押し出してくれている。


『少し待ってなさい』と呟いた母親は、リビングを出て行った。

そして、戻って来た母親の手には、私名義の通帳と印鑑が握られている。


「満期になったから通帳の方に入れ替えといたの。これを使いなさい」

「うっ………。ありがとう、お母さん」

「あらあら、いい歳した大人が……」


嬉しくて思わず涙が溢れ出した。

そんな私の背中を優しく擦る母親。


頑固な父親とは正反対で、母親はいつも優しく見守っていてくれる。


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