ライラックをあなたに…
「ただいま~」
「あら、寿々どうしたの?」
実家のリビングに顔を出すと、母親がキッチンで夕食の準備をしていた。
「今日は泊まってくから」
久しぶりの実家の匂いに身体から力が抜け、ボスッとソファに雪崩れ込んだ。
すると、
「この家が、あなたの家でもあるって事を忘れた訳じゃ無いでしょ?」
呆れた表情で濡れ手でをエプロンで拭う母親。
侑弥さんの一件以来、真面な会話すらしていなかった。
両親に顔向けが出来ない私と、何て声を掛けたらいいのか戸惑う両親。
お互いに沈黙が暗黙の了解となってしまいそうで、必然的に私から距離を取っていた。
けれどそんな私でも、両親からしてみれば大事な一人娘に変りは無い。
現に母親からは頻繁にメールや電話が来ていたのだ。
「お母さん」
「ん?………何?」
「お願いがあるんだけど……」
「お願い……?」
「うん」
天ぷらを揚げていた手を休め、リビングにいる私のもとに歩み寄る母親。
その表情は意外にも明るく見える。
「お願い事って、何?」
優しい笑みを浮かべ、母親は隣りに腰を下ろした。