ライラックをあなたに…


バイトが無い今日は、スクール帰りにとある場所へと向かう。


一颯くんの自宅とは反対方向の電車に乗り込み数駅。

すっかり見慣れた景色に足取りも軽い。



私は肩から掛けたトートバッグの他に小さな袋を手にしている。

これは今日の授業で作ったサンドイッチ。


こうして、バイトが無い日は授業で作った軽食を手にして、私はとある場所へと通っている。





―――――コンコン


「失礼します」


静かに扉を開けると、


「いらっしゃい」


優しい笑みを浮かべ、温かく私を招き入れてくれる人。

………小池教授。



あの日、私が初めて教授と会った日。

教授の言葉に心の奥に隠れていた感情が一気に溢れ出し、私はあられもない姿を晒してしまった。



今思えば相当恥ずかしい事だけど、何故だろう?

一颯くんといい、教授といい、自分の惨めな姿を無意識に曝け出せてしまうのは……。



きっとどこまでも寛容で、全てを包み込んでくれるような温かい瞳をしているからだと思う。


そんな優しい教授に、私はすっかり魅了されていた。


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