ライラックをあなたに…
侑弥さんは次から次へと、用意していたみたいに言葉を紡ぐ。
私にはそれを受け止める準備さえ、させて貰えて無いというのに。
本当に彼は、別人になってしまったみたい。
私の知っている彼はもう、ここにはいない。
「寿々、今まで……本当にありがとう」
「ッ……うぅッ…」
両手を握りしめていた彼の手がゆっくりと離れ、ふわりと長い腕に抱きしめられた。
彼の鼓動が布越しに聞こえて来る。
今まで何度も何度も聞いて来たこの鼓動。
なのに今は、心地良さを感じる事さえ出来ない。
まるで、時計の秒針を聞いているみたいに、規律良く刻まれる感情の無い音に聞こえて。
「寿々」
耳に届く彼の声が、胸の奥に重く響く。
「本当に寿々を心から愛していた……」
スッと解かれた私の身体は、彼との繋がれた赤い糸を解かれてしまうように、少しずつ彼との距離が離れてゆく。
「寿々………ありがとう……さようなら……」
その言葉と共に、彼の気配が遠ざかってゆく。
握られていた手の温もりも、抱きしめられる腕の中で感じた彼の体温も、何もかも遠ざかって……消えてゆく。