鈴の栞
すずのしおり

一頁

 


 例えるならば、それはある種の、中毒。


 こんな経験はないだろうか。
 移動教室のとき然り、自習室で勉強するとき然り。どうしてかよくわからないけれど、その教室に何度か通っている内に、自然と座る席が決まってきてしまう。自由席であるにも係わらず、だ。

 いつの間にか各個人のテリトリーと化したその席は、いかなる他者の侵犯も許さない。……いや、本当はどこに座ろうとその人の勝手だし、当然早い者勝ちなのだけれど。
 暗黙の了解というか何というか。特に自習室の常連生徒は、必ずといっていいほど自分たちのテリトリーを死守している。たまに来るだけの生徒に取られないよう、場所取りが入念かつ計画的だ。きっと、その席でないと落ち着けないのだろう。


 実は、私もそのクチだ。私の場合は図書室。

 六人掛けテーブルが十脚、それらが左右五脚ずつの二列に並んでいる、高校図書館の読書スペース。私の暗黙のテリトリーは、向かって左側の列の、奥から二番目のテーブルだ。
 いつも私ひとりしか使わないそのテーブルが、私の安らぎの場所だった。

 そしてこれからも、それは変わらないはずだったのだ。


 
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