鈴の栞
 


 気になりつつもそれが何だったのか思い出せず、モヤモヤしながらメニューを眺める。やがて店員が注文を取りに来て、私は慌ててページをめくった。

「……あんたら、何でここにいるわけ」

 店員の第一声はそんな喧嘩腰な言葉で、一瞬ドキリとする。あれ、なんか怒ってる……?

「お前、今日は来なかったからさ。どうしたのかなと思って」
「そういうときはココのシフトが入ってるってわかってんだろ、あんた。嫌がらせ?」
「あはは、違う違う。飯山さんが寂しそうにしてたから、連れてきてあげただけだよ」

 ……え、これ何の話なの?木村先生と店員さん、知り合い?ああそうか、それは先生がここの常連だから当たり前か……ていうか今、さらっと私の名前が出なかった?

 メニューを見るのを中断し、頭を上げる。目を向けた先には、藍色のエプロンと三角巾を身につけた茶髪の男―――


「……て、手嶋先輩?!」
「よう、ネコちゃん」

 苦笑して私に手を挙げてみせる店員は、服装こそいつもと違うものの、どこからどう見てもあの手嶋先輩だ。思いがけない遭遇に、私はぽっかりと口をあける。
 そんな私に、向かい席の木村先生はにこりと笑いかけた。


 
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