鈴の栞
そっぽを向いて頬を膨らませた私の顔を、先輩は可笑しそうに突いた。
「あーわかった。ネコちゃん、俺が受験しないこといつまでも黙ってたから気に食わなかったんでしょ」
「……そういうわけじゃ、」
「私の心配を返せ!って感じ?……じゃあ、そこんとこの経緯もついでに教えてあげよっか」
そう言って笑うと、先輩はベンチの背に深くもたれ込んだ。思わず振り向けば、彼の目はどこか遠くを見つめている。
「俺ねえ、父さん亡くしてんの。中三のとき」
そんな事実から始まった先輩の話に、私は息を呑んだ。しかし当の本人は特に深刻な素振りでもなく、軽い口調で淡々と続ける。
「ちょうどそれが受験シーズンでさ、色々大変だったんだけど、まあ何とかココに受かって。父さんの保険も下りたんだけど、そんな大手勤めってわけじゃなかったからさ、結構少なくて。それだけじゃ生活していけないだろ?だから専業主婦だった母さんが働き始めて。……給料なんか、あってないようなもんだよ。いい歳したオバサンが働けるとこなんか少ないし。もちろん安働き」
……この話、これ以上聞いちゃいけない気がする。私が小さく頭を横に振って見せると、先輩は私の手を握ってきた。
まあ聞いてよ、そう言ってにこりと笑う。