鈴の栞
 


 ネコちゃん冷たい、ネコちゃん酷い、と口を尖らせる先輩を無視していると、突然手を握られた。驚いて顔を上げれば、哀願の眼差しでこちらを見つめてくる彼と目が合う。

「ねえ、ネコちゃんお願い!今日だけ!」
「………」

 わざとなのかはわからないが、不必要に潤んだ瞳は小動物を思わせ(身体は全然小さくないけど)、なんだか放って置けないような気持ちにさせられる。母性本能を刺激されるっていうのかな、こういうの。
 ね?と首を傾げて聞いてくる先輩の可愛らしさに負け、つい私は頷いてしまった。

「ありがとーネコちゃん」
「……別にいいですけど」

 今日の先輩は一体どうしたのだろう。訝しみながら先輩の左隣の椅子に座り直す。
 途端、伸びてきた先輩の腕に、身体を丸々抱き寄せられた。

「え、わっ?!」
「あー、やっぱネコちゃんの身体あったかー」

 私の上半身を思い切り抱きしめながら、幸せそうに笑う先輩。身体をよじって抜け出そうとしても、その力は緩まない。

「なに、するんですかっ!放してください!」
「ネコちゃんって、結構体温高いよね。昨日も思ったけど」
「そんなの知りません!」
「人間湯たんぽだわこれ。極楽極楽ー」

 ちょっとこの人本気でぶん殴りたくなってきたんですけど!


 
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