なんで俺じゃあかんねん
彼女はまたしばらくなにも言わなかった。

けど、うつむくことはなくて、ただ遠くを見て時々お茶で喉を潤していた。

俺もなにを言うこともなく、彼女の隣に座っていた。

何分経ったかわからない頃に、すうっと深呼吸のような息遣いが聞こえた。

ふと雅さんを見ると、なんだか少しすっきりした顔だ。

「ありがとう、坂井くん。」

そう言って俺に笑いかける。

その表情を見て、安心する。

いつもの雅さんが戻ってきたみたいだ。

「いや、俺はとくになんもしてなから。」

「そんなことないよ。なんか、背中押された。」

パッと立ち上がって、俺を見下ろした。

「よし。」

そう呟く彼女は、本当に吹っ切れたようだ。

「おくろか?」

「ううん、近いし。私こそ送ろうか?」

「男が女の子に送ってもらうのは格好つかんから。」

「そう。」

二人でまた笑い合う。

頑張れ、雅さん。

そんな思いを込めて、彼女を見るとそれが伝わったかのように深く頷いてくれた。

「また明日。」

彼女からそう言った。

それは、暗に明日の文化祭に来るって意味。

「うん。また明日。」

待ってるから、必ず来いよ。



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