贖銅(ぞくどう)の刑
序章・心乱れる男
〈銅銭に罪を着せ、晴れて無罪放免。

それが、世の中の仕組みって訳だ…

だがな、銅銭と人は、同じなのか?

絶対に許さねえ…〉

※※※※※※※※※

ゴールデン・ドリーム・デー(夢の金曜日)とは、よく言ったもので、夢も魔法も覚めるミッドナイトが近づこうかというのに、家路を焦って、ガラスの靴をうっかり落としてしまうシンデレラは、この週末のT区にはいないようだ。

千歳(ちとせ)は、助手席の窓から右手を出して、時速十キロもの低速で次々と移り変わっていく、リア充カップル達の光景に向かって、一生懸命に挨拶をしていた。

週末は、この街の名物として、大渋滞が起こる。

と言うのも、このT区のあるS県は、全国でも有数の、鉄道の数が少ない県であったからである。

この県で足(交通手段)と言えば、十中八九、自動車と決まっていたのだった。

そして、この街である。S県指折りの繁華街で、『飲む・食べる・遊ぶ』には、まず困らない。

ドラマの舞台として、グルメの街としてもさんざん雑誌やテレビで取り上げられているせいもあり、週末は、他県からの来訪者も、決して少なくはなかった。
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