桜縁




「月……!」


「兄さん……?」


史朗は思わず月を抱きしめていた。いたしかない理由があるとはいえ、戦とは無関係の人を殺さなければならないのだ。


その思いは計り知れない……。


「必ず、お前は俺が守ってやるから!」


「ありがとう……。史朗兄さん……。」


二人はその時まで、。


「お嬢様がお待ちです。準備は整いましたか?」


「!」


外から迎えの声が聞こえる。その時が来たのだ。


月と史朗は覚悟を決め、部屋を出て行った。








大広間では、姫の誕生を祝う席が設けられ、大勢の参加者達で賑わっていた。


「お嬢様、連れて参りました。」


「お通ししなさい。」


襖が開かれ中へと入り、二人は姫の前へと出る。


「お前達が薩摩から参った芸者か。今宵は私のために、舞いを踊ってくれるとか……?ぜひ、見せておくれ。」


二人は位置につき、舞いを舞う体制に入ると音楽が鳴り響き、二人は踊り出す。


その踊りは、見る者を華やかにも切なく、淡いものへと変えていき、見る全ての者達をくぎ付けにした。


音楽が消えると同時に、歓声と拍手が沸き上がる。


「素晴らしい!素晴らしいぞ……!!」


「こんな舞いは見たことありませんわ!!」


「良かったですね 姫様!」


踊り終えた月を、優しく見据える蛍。


だが、こんな歓声とは裏腹に、暗殺の時が近づいていた。


月は覚悟を決め、姫である蛍の前に進み出る。


「もし、御無礼でなければ私達と一緒に、姫様も一曲いかがですか?」


「姫様……!」


「せっかくの機会ですから、姫様も踊られてはいかがでしょうか?」


姫を踊るようにと誘う侍女達。


周りの者達もまんざらではなさそうだ。


月は姫に手を差し出す。


「姫様……。」


この手を姫が取れば、確実に蛍は死んでしまう。


何も知らない蛍。


周りの者は気づいていなかったが、微かに月の手が奮えていた。


「……いや、遠慮しておこう。今宵はそなた達のおかげで、楽しませてもらえた。礼を言う ありがとう。」


「………!」


計画は失敗だ。


これでは、史朗が死んでしまう。


月は放心状態になってしまう。


しかし、その瞬間に煙幕が上がる。


「!?」


周りは白い煙りに包まれ、その場にいた者達が騒ぎ出す。


「敵だ!敵が現れた!!」


< 12 / 201 >

この作品をシェア

pagetop