桜縁




「ここまででいいよね?」


「はい、ありがとうございます。」


「じゃあ。」


沖田は月に背を向け、待たせていた組の方へと行く。


月はそれを見送り、目的の店へと向かう。


【升屋】は薬剤を取り扱う店。店先にはたくさんの種類の薬剤があって、足りない薬剤を調達するには便利がいい。


持ってきていたメモを取り出し、薬剤を選ぶ。


そこへ、角屋の者がやってくる。


宴会の席で見たことがある男で、あの時ヒソヒソと話していた者だ。


升屋の主と何かを話しているようだ。月は気づかれないよう、薬剤を選ぶフリをして男達に近づく。


「………銃をあと五十用意してくれ。こっちに三十ある。」


「分かった。弾薬の方も後で届けよう。」


「計画を進めるためにも、こっちで武器は保管している。頼んだぞ。」


「…………。」


男は月が聞いていることに気づかずに、店から出て行く。


これは物的証拠を掴める情報だ。


まだ、巡察をしている組が近くにいるかもしれない。


月は薬剤を選びそれを買うと、足早に店から出て行き、巡察をしている組を探す。


今日の当番は沖田の一番組と永倉の二番組だ。


月は走って行き、その途中で永倉の二番組を見つける。


声をかけようと走り寄ろうとすると、突然月の目の前に男達が現れる。


「!」


後を振り返ると男達はぐるりと月を囲んでいた。


「な、何かご用でしょうか?」


「ふん、ご用でしょうか? それはご用ですよ? お前今誰に声をかけようとしてたんだ?」


男の一人が尋ねる。よく見ると宴会にいた下っ端浪士達であった。


どうやら、月が聞いていたのに、気づいていたようだ。


「だ、誰にも用なんてございません! 早く帰りたいので、道を開けて下さい。」


慌てて否定をする月。


「はん!そんな話しが通用するかよ!」


「きゃあっ!」


浪士の一人に腕を掴まれる。


「お前新撰組に通じてんだろ?俺達の味方になれば、命だけでも助けてやるぜ?」


色目を使い顔を近づけてくる浪士。


冗談じゃない!


この前は調査であんな真似をしたが、こんな奴らに命乞いをするために、あんなこと出来るわけがない。


月はその男を突き飛ばす。


「やめて下さい!私はそんなんじゃありませんし、新撰組とも通じていません!」


「てめぇ…!俺達浪士とやり合おうってんのか?」
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