桜縁




「僕が寝るまでていいから、そこにいて欲しい。」


「沖田さん?」


「眠るまででいいから、どこにも行かないで、僕の傍にいて。」


沖田は背を向けたままだが、その手には力がなく、ねだるようにしっかりと握られていた。


「……分かりました。少しの間だけですよ。」


そう言って月が腰を下ろすと、沖田は満足そうに、月の着物を掴んでいた手を、今度は月の手を握りしめる。


相変わらずそっぽ向いたままだが、口元が嬉しそうに微笑んでいるのが見えた。


「これが夢だったなら、覚めないほうがいいな。」


夢じゃないよ……。


そう言いたかったがやめた。代わりに掛け布団を優しく深くかけた。


少しでも眠って欲しい。


その願いが通じたのか、やがて沖田はすぅと穏やかな寝息を立てていた。


月の手をしっかり握りしめたまま…。


月はその手をそっと離し、掛け布団の中に入れて、優しく沖田の髪を撫でる。


「私の元に帰って来てくれてありがとうございます、沖田さん。」


幸せそうに眠る沖田の横顔を見る。


今まで塞がることがなかった二人の溝が塞がっていく。


これまでに沢山のことがあったけど、沖田の傍にいられて、こんなに穏やかな気持ちになったことがない。


こんなにも愛しいと想ったことがない。


これから先何があるかは分からないけれど、それでも沖田の傍にいられれば、それだけで幸せを感じられるのだ。


月は目を細めて微笑みながら、愛しい人の髪を撫で続けた……。




< 167 / 201 >

この作品をシェア

pagetop