もう猫になんか生まれない


手が痛い。
それで目が覚めた。


「…おい」

声をかけると、自分の右手におもいきり爪をたてていたイキモノが身じろぎした。

「んぅ…りんー…」


返事はするくせに、目はとじられたまま。

臨は盛大な溜め息を吐いて、ためらいなくそいつをベッドから落とした。


「――いぃったあああぁ!!」


「お前ホント懲りねえよな、クイ」


右手の平の赤痣。生まれつきあるそれは、普段それほど目立たない。

だが爪をたて続けられているそこは、触れるだけで痛むようになってしまった。

夜、イキモノは必ず臨のベッドに潜りこんでくる。

そして臨の痣に爪をたてて眠ってしまう。

キレた臨に突き落とされるのは、毎朝のお約束だ。

(…まったく)

何でこんなの拾ったんだ、自分。

責めても仕方ないとは思いながら、臨は一ヶ月ほど前の夜に思いを馳せた。
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