抹茶モンブラン
「とりあえず命は無事で良かったわね」
「うん。ホッとした。でも、仕事は当分復帰できそうも無いし。鹿児島の親戚に連絡したけど誰も来てくれそうもないんだ。僕がしばらく家族の代わりに看病をしなければいけない。ごめん……鈴音とはしばらくきちんと会えなくなるかもしれない」

 ………状況を考えたらいたしかたのない事だった。
 彼に鮎川さんに対する態度が深入りしすぎだなんて言葉も言えない。
 かといって、私が看病に加わって一緒にお世話をするというのは鮎川さんが嫌だろうなと思った。
 私はたまに病室に見舞いに行く程度がちょうどいい距離なのに違いない。

「早く回復して歩行も問題なく出来るようになるといいわね」
「うん。それを一番に願ってるよ」

 こうして、私と光一さんの間に築かれた空間は歪められた。

 二人の時間がいつ戻るのか……果たしてどういう未来が待っているのか。分からなくなった。

 神様は本当に意地悪だ。

 鮎川さんへの試練をあまりにも強く与えすぎなのではないですか。
こんな弱い立場になった彼女は、光一さんしか頼る人がないじゃないですか……。

 私はどこへ行けばいいんですか。
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