抹茶モンブラン
 キス以上は無理だったけれど、あの人の事はやっぱり嫌いにはなれない。
 せっかくの縁だったのに……私は自分の本心をごまかすのは無理なんだと分かった。


 もう時間は1時をまわっていて、緊張とアルコールのせいでかなり強い頭痛がしていた。

 タクシーから降りて少し夜風に当たる。
 私はこれからどうすればいいんだろう……もう別の男性を好きになろうなんて無茶な事は考えない方がよさそうだという事ぐらいしか思い付かない。
 アパートの鍵を出そうとカバンに手をかけながら歩いていると、玄関前に黒い影が見えた。

「……光一さん?」

 いつからそこに立っていたのか、スーツ姿のままの彼が私を見つけてフラフラと近寄ってきた。

「鈴音……」

 今にも消え入りそうな声で彼は私の名前を呼び、息が出来ないほど強く抱きしめてきた。

「何で僕の前から消えようとしているの。本当の事を教えて。そうでないと僕は明日にも死んでしまいそうだ」

 彼の悲痛な声に、私の胸も張り裂けそうに痛んだ……。
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