抹茶モンブラン

2. キス

「聞こうかどうか迷ったんだけど」

 めずらしく堤さんのアパートに呼ばれ、私はちょっと緊張しながら出されたコーヒーを飲んでいた。
 そんな時、彼が言いにくそうに口を開いた。

「……何ですか?」
「うん、あのさ……お昼とか車乗る前とか薬飲んでるでしょ。体どこか具合悪いの?」

 私はこっそり飲んでるつもりだったけど、薬を取り出す時の“パキ”っていう独特の音はごまかせなかったみたいだ。
 胃薬ですとか普通に嘘をつけばいいんだろうけれど、堤さんとは仕事以外でもこうやって会うようになっているし、簡単に事情は話さないといけないかな。
 そう思って、私は自分がバツイチだという事を初めて告白し、そのせいでやや神経が不安定なのだと伝えた。

「そう。普段の生活はその薬だけでコントロールできるの?」

 彼は私がバツイチだという事には全く反応を示さずに、体の状態について聞いてきた。

「ええ。まあ、疲れやすいっていうのはあります。だから土日も一人でいた頃はほとんど寝てばかりでしたし。慢性疲労してる感じですね。でも、仕事では緊張感もありますし、ミスが無いようにしますから」

 そう言うと、彼は手を振ってそういう事はどうでもいいという仕草をした。

「仕事でのミスは別問題だから。乙川さんが苦しいのに無茶な注文つけてたら、言って欲しいだけ。僕ってそういうの気が回らないし……とにかくもっと言いたい事言っていいから」

「はい……分かりました。ありがとうございます」

 ペコリと頭を下げ、私は会社に居る時と変わらない態度で堤さんに接してしまう。
 そんな私をじっと見て、彼はちょっと寂しげな顔をした。
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