抹茶モンブラン
「あのさ……待つって言ったけど、乙川さんの心って少しは僕に向いてるのかな」
「え、どうしてですか?」

 未だに敬語も外せないし、常に彼との距離をある程度空けた状態でいるから、彼にそう思われても仕方なかったかもしれない。
 思っていたよりずっと強く感じる堤さんの好意を、私は素直に嬉しいと思っていた。
だから毎日お弁当を作ったり、クッキーを焼いたり……おせっかいな事をしている。

「何ていうか、乙川さんの心が随分遠く感じるから……」

 そう言った堤さんの瞳はやっぱり捨てられた子犬のように見えてしまって、私は年上の怖い上司を、優しく抱きしめたい……なんて思ってしまう。
 私の心は、多分彼が想像しているよりずっと近くにあるんだけれど、それを伝える方法が分からない。

「そんなに遠いですか?」
「うん、もう少し……近くなりたい」

 机を挟んで向かい合って座る距離っていうのは、隣り合って座るよりやや心が遠くなる。
 不思議だけど、好きな人とは隣に座っていたいっていう感覚になる。
 そうは思うけど、自分から彼の隣に座るという勇気が出ない。

「近くなるには、どうすればいいんでしょうか」

 何年生きてきたのか。
 結婚までしていたっていうのに、私は夫以外の男性を知らない。
 だから、こんなバカみたいな質問をしてしまう……。
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