【B】星のない夜 ~戻らない恋~




……まさか……。


そのまま妊娠検査薬を購入して一人調べる。



検査薬に尿をかけて暫く待つ時間。


二つの窓が徐々に色が変わり始めて
うっすらと表れる赤紫のライン。


どちらの窓にも一本ずつ線が伸びる。




慌てて、説明書を覗きこむ。
赤紫のラインが出ていたら陽性……。



丸い窓を見つめながら、
その場で崩れるようにドアへともたれた。



嬉しいはずの妊娠。
だけど……祝福されるはずのない妊娠。



心の魔物は、また囁きかける。





『いいじゃない。
 全てを奪ってしまえば。

 君が咲空良になり代わってしまえばいい。
 それを望んだのは咲空良自身なのだから』





何度も何度も囁き続けるその言葉。






次の休日。


私は誰にも告げぬまま、
一人、少し離れた産婦人科の扉を開ける。



そこで診察を受けて告げられる妊娠。




そのまま私は病院を後にする。






もう引き返すことなんてしない。
そして……この子を諦めることもしない。






全てを手に入れたい。





脳裏に浮かぶのは怜皇さまの隣で微笑む、
咲空良ではなく私の姿。




悪魔は囁き続ける。




引き戻すことが出来ない私の復讐【ゲーム】。



怜皇さまの赤ちゃんが宿ったお腹にそっと手を触れた。



まだ胎動も感じることは出来ないけど
確実に、この場所に赤ちゃんがいることはわかった。




翌日からもいつもと
変わり映えのない時間は続く。




体調はいまいち。


机に座って作業をする集中力が続かない私の傍に来て
体を気遣うお局様が早退できるように手配してくれる。



促されるように後にする部屋。



部屋を去る間際、いつもは煩いだけのお局様が
そっと耳打ちした。
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