【B】星のない夜 ~戻らない恋~

「桜舞です」


カクテルを少し口元に運んだあと、
彼女は次から次へと涙をこぼしながら話はじめる。


「ねぇ、どうして私じゃダメなの?
 
 さっきもアナタが会社と交流のある女性と
 一緒に居るのを見ただけで、
 妬いて自分が制御できなかった……。

 バカだよね……」




それは彼女が零す、初めての本音。





その夜、代行業者に車を預けて
邸へと戻ると、寝室のベッドで初めての夜を共にした。






俺の腕の中で恥じらいを見せながらも、
悦びの声をあげる彼女はとても美しかった。






その日から、時間が許せる限り邸に帰宅して
彼女と過ごす時間を優先的に作るように心掛けた。




彼女を抱きしめた夜から始まった新しい時間。



彼女を本当の意味で幸せにしたいと
心から願うようになったから。


家族と言うものに、恋と言うものに
本当の【幸せ】を感じることが出来なかった俺が
今は心から慈しみたいとさえ思わせてくれる。


それもまた彼女が俺に教えてくれた
家族としての一歩だった。
< 129 / 232 >

この作品をシェア

pagetop