【B】星のない夜 ~戻らない恋~

4.言えない妊娠 さし伸ばされた手 -咲空良-



紀天と睦樹さんに支えられて、
心【しずか】の優しさを感じながら、どうにか乗り越えることが出来た
葵桜秋が咲空良として怜皇さんの元に嫁いだ結婚式。



その帰り道。


『今の咲空良ちゃんを一人にはさせられないよ。
 きっと心【しずか】も心配してる。

 それに紀天も一緒に居たがってるよ』



そんな風に声をかけられて、私は睦樹さんが運転する車で
久しぶりに廣瀬家へとお邪魔した。




「おぉ、咲空良ちゃん。
 大変だったねー」



そう言って心【しずか】のお父さんは私を迎え入れてくれた。



「会長は流石に心【しずか】のお父さんだよね。
 この間、咲空良ちゃんと葵桜秋ちゃんの見分け方教えて貰ったんだ」


そう言って、悪戯っぽく睦樹さんは微笑んだ。


「見分け方って、私も気になります……」

「だけどそれは秘密だよ。
 咲空良ちゃんに頼まれても教えられないなー。

 だけど……心【しずか】秘伝の見分け方があるから、
 会長も葵桜秋の名で咲空良ちゃんが現れても、咲空良ちゃんだって
 ちゃんとわかってくれる。

 ありのままの咲空良ちゃんに戻りたいと思えば、
 此処に来たらいいよ。

 心【しずか】も安心すると思うし……紀天も喜ぶ」

「だけど……睦樹さんはご迷惑じゃ?」

「迷惑?誰がそんなこと言った?
 俺一人じゃ、紀天は手に負えないし、家事だってまともに出来ない。

 咲空良ちゃんが実家から出れずに、ここに来れなかった間、
 一人で洗濯をしようと思って、洗濯機回したんだ。

 色物も、白物も全部一緒にまわして、目についた漂白剤いれて石鹸と柔軟剤いれたら
 見事に色落ちして、もうぐちゃくぢゃ。

 あんなに沢山ある洗濯洗剤から、その洗濯に適した洗剤を選んで綺麗に洗濯をしてくれる。
 本当に凄いなって思ったよ。

 悧羅に通ってたから、アイロンをかけるとか掃除をするって言うのはあったけど
 流石に……洗濯機を使うことはなかったからなー」



そう言って睦樹さんがしみじみと呟いた。



「別に洗濯は難しいくないですよ。
 洗濯洗剤にはちゃんとマークが書いてあるんです。

 ウールだったらこのマークの洗剤。

 色物と白物と、最初にわけて洗濯すると色落ちとかの心配もないんですよ。

 白物には白物用の漂白剤があって、色物には色物用の漂白剤があるんです。
 それもちゃんとボトルに手掛かりが書いてあるので、それを見てくれたら
 安心して出来ます。

 最後に柔軟剤。

 心【しずか】の相棒の洗濯機は凄くお利口さんなんです。
 だから柔軟剤はこの場所に入れて貰ったら、後は自動で洗濯機が投入してくれます。

 紀天君にも安心の、ふわふわお洗濯の出来上がりです」



気がついたら、凄く楽しそうに睦樹さんに洗濯のやり方説明していて
そんな私を退屈な表情一つ浮かべずに、睦樹さんは頷いてくれた。



「咲空良ちゃんが教えてくれたから、俺も今度はちゃんと出来るかな。
 だけど……家事をしてる時とか、料理を作ってる時は本当に生き生きした楽しそうな表情を浮かべるよね」

睦樹さんはそう言いながら、私を少しずつありのままの咲空良として取り戻させてくれた。

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