【B】星のない夜 ~戻らない恋~

11.偽りの真実~病を抱えた息子~ -葵桜秋-



伊吹の誕生。


それは瑠璃垣においての私の立場を大きく安泰させる。


今もNICUから出ることが出来ないけれど、
連日のように、瑠璃垣の関係者が出産祝いにかけつける。


病室には果物やお花、
そしてお祝いの品々が溢れかえっていく。



同時に私の耳に届いたのは咲空良の事。



『私、噂で聞いたんですけど……
 タクシーで来られた瑠璃垣の奥さまと、
 救急車で運ばれてきたそっくりな女の人、
 双子なんですって。

 双子って、同じような時期に出産するって話には聞いたことあったけど
 まさか……本当に起るなんてびっくりです。

 だけど……お二人とも、無事に生まれて良かったですよねー。
 救急搬送された方も、無事に意識が回復したみたいよ」



咲空良も、その子供も助かったらしいと
看護師たちの噂話で感じ取れた。


咲空良とその子供のことに関しては、
今は何とも思わない。

私は瑠璃垣の後継者を産んで、
私も一族から認められた。


咲空良と言う偽りの名前も伊吹を産んで、
初めて少し近いものに感じ取れたのかもしれない。



伊吹の名前は我が子のもの。


そして瑠璃垣伊吹の名前は、
一族が認めた後継者として育てられる子にのみ
与えられる名前だから。



それは決して変わることのない事実。




搾乳しては、NICUに届ける日々。


出生直後から続く高熱は
今も伊吹を苦しめ続けてる。




早く熱が下がってくれれば。




願いはただ一つ。
伊吹が元気に育ってくれたら。





一日、一日が過ぎ去っていくのに
伊吹は一向に回復する兆しがない。



不安げに伊吹を見つめるのは、
今は私一人じゃない。




伊吹が生まれて、怜皇の態度が変わった。




私と距離を置いていた怜皇は今は、
今までが嘘だったみたいに
私と伊吹の傍にいる時間を作ってくれる。





これで三人で幸せになれる。




この形が私がずっと求め続けた形だから。
家族三人の幸せを守りつづけたい。







ただ静かに過ぎていく時間。
だけど望まぬ闇は降りてくる。


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