【B】星のない夜 ~戻らない恋~


「そうか、睦樹が父親か……。
 瑠璃垣の習わしで瑠璃垣の後継者には一族が定めた名前を命名する。

 後継者である俺の長男。
 
 葵桜秋が産んだ子供が伊吹を名乗ることになるが
 本当は志皇【しおん】と名付けたかった。

 君の子供に考え続けた名前だ。

 名付け親になってもいいか?」



噛みしめるように言葉を紡いだ名前に私は黙って首を振る。




この子は瑠璃垣の家とも都城の家とも関係ない。


ただ私の愛する子供。


そして……全てを受け止めて、
私を受け入れてくれた睦樹さんと紀天が今は傍に居る。





「生まれた子の名前は尊夜(とうや)がいいわ。
 睦樹さん、ダメかしら?」



怜皇さんとの時間も睦樹さんと紀天と過ごした、
あの夜も……全てこの子がもたらせてくれた時間だから。


そんな絆の夜を名前に。

「いいね。
 尊い夜の中で誕生した奇跡。

 廣瀬尊夜。
 明日にでも出生届を提出してくるよ。紀天と一緒に」


そう言って睦樹さんは微笑んだ。


「怜皇、君は君の奥さんの幸せを。

 咲空良さんと、尊夜【とうや】のことは
 俺と俺の息子・紀天が大切にするさ。

 心【しずか】と一緒にな」




睦樹さんが言い切ると怜皇さんは静かに一度目を閉じて、
病室から出ていく。



「幸せに」


そう言い残して。




二人きりになった病室。



「これで良かったのかな」



小さく零した言葉。
呟いた私に、睦樹さんが髪を優しく撫でてくれた。




「睦樹さん、紀天は?」

「来てるよ。

 ここには連れてこられないから、
 今は託児所の方で預かって貰ってるよ。

 早く体を治して、尊夜を連れて家に帰ろう」



そう続けてくれる言葉。



尊夜を連れて一緒に睦樹さんと紀天、
そして心【しずか】がいるあの家に帰るの。





そしたら……暗闇に光る星が見つかるから。
優しい光を感じられるから。


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