【B】星のない夜 ~戻らない恋~

19.歩き出す一歩 -咲空良-


尊夜が消えて一年が過ぎようとしていた。



尊夜が手元に帰ってくることはないけれど、
その代わりに、一ヶ月に一度、怜皇さんから封筒いっぱいのスナップ写真が
アルバムに収められて届くようになった。




離れていても、尊夜の成長を見つめることができる。




最初の頃はとても残酷だったその好意も、
今では心から喜べるようになった。




警察からも尊夜が見つかったと言う報告はあがっていない。




そんな報告、出てくるわけがない。


だって、私の子供は此処に居るもの。

別の戸籍、別の名前を与えられて……
写真の中で笑ってる。







精神的なショックから声すらも失ってしまっていた私。




だけどその声も一時的なもので、
夏が終わる頃には少しずつ取り戻すことが出来た。



その日からゆっくりゆっくりと新しい一歩を踏み出し続ける。




そんな私の……睦樹さんは良き理解者だった。





都城咲空良として、瑠璃垣に嫁ぐことが決まる前に
やってみたかったエステ。


その仕事をこの家で近所の人を集めて、
交流を深めるために始めてみたいと言うと、
睦樹さんは喜んでくれた。



紀天がお昼寝をした合間にエステの勉強を始めてみる。



マッサージでリンパを流す方法。
体中に名付けられているツボの名前とその効用。


そう言ったものを勉強しながら、
週末だけ紀天を睦樹さんに任せてスクールへと通学する。



何も出来なかった自分から自分自身を強くするための一歩を。




それと同時に廣瀬の会社のことも力になりたいと思うようになった。



今では少しずつ、経理の仕事を覚え始めてる。



そして……睦樹さんには無理をするなと言われながらも、
今の私が続けているのは、従業員のお弁当作り。




料理をすることが大好きな私は飾ったものは作れないけど
それでも精一杯の栄養を考えて会社で働いてくれている人たちに
振舞うことは出来る。



そうやって繰り返している間に近くにいるのに、
打ち解けることなんて出来なかった、睦樹さんの仕事仲間の人たちとも
コミュニケーションをとることが出来るようになった。



< 207 / 232 >

この作品をシェア

pagetop