【B】星のない夜 ~戻らない恋~

21.双子が入れ替わる日 -怜皇-


伊吹と志穏が生まれて一年と三ヶ月が過ぎた4月。




その日を境に、誰にも内緒で内輪で始まった
運命の日が訪れた。



昨日まで志穏と呼ばれ続けていた、姉・咲空良の子は
長男の瑠璃垣伊吹として扱われ、それまで伊吹と呼ばれていた
妹・葵桜秋の子は、瑠璃垣志穏としてその生を全うすることになった。




世間には何も公表されることのない瑠璃の封印。




その日を境に、今まで実母に育てて貰っていた志穏の自宅は
俺の屋敷である、瑠璃垣の家へとなる。


正統後継者として扱われるべき存在が、
屋敷の外で育てられるのはおかしいと、
俺の家の事情を知りもしない親族の奴らが切りこんできた。 




ますます情緒が不安定になっていく妻である咲空良として生き続ける葵桜秋。




叶うなら、彼女にもこんな重責を背負わせたくなかった。


咲空良とは違う存在で、確かに正確に問題はあるのかも知れない。
だけど彼女もまた、俺が気になってた存在には違いない。



それ故に彼女と寄り添おうと、心を入れ替えて
伊吹にも、彼女にもずっと寄り添った。


彼女の機嫌を損なわないように、
俺なりには気を使ってきたつもりだ。




ある意味、彼女も瑠璃垣の犠牲者なのだから。


俺と同じで……瑠璃垣と言う見えない鳥籠に捕らわれ続ける
犠牲者に過ぎない。



だからこそ……少しでも、彼女の精神が安らげるなら
咲空良の子を彼女の手が届かないところで、育てるのも手段かもしれないと思えた。




だけどその運命は、今再び、瑠璃垣の封印によって
大きく変貌を遂げた。



「伊吹坊ちゃま、お帰りなさいませ。
 本日より、怜皇さまがご不在の折は貴方がこの屋敷の主です」



帰ってきた志穏に、そう言って声をかける木下。




昨日まで、志穏と呼んでいたその口が、
今は志穏のことを、伊吹として扱い敬う。



そんな歪んだ現実が、真実の現実へと姿を変える時
瑠璃の封印は完全に封じられていく。


誰にも開けられぬ、開かずの扉となって
瑠璃の闇を飲み込んでいく。






「し……っ」


思わず、志穏と呼びそうになった名前を
慌てて伊吹へと呼びかえる。



伊吹となった志穏は、キョトンとしたような顔で
じっと俺の方を見つめ続けた。





「伊吹さま、どうぞこちらへ」



そう言って、使用人たちが次から次へと
伊吹となった志穏の元に近づいてきては順番に
歩行器を得意げに操って歩く伊吹と遊んでくれる。

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