【B】星のない夜 ~戻らない恋~


「ねぇ、葵桜秋ちゃん。
 お酒、弱かったんだー。

 断れば良かったのに……」


私以上に飲んでたはずの、
佐光さんは、酔ってる気配もなく
今も素のように見えた。




意味も分からず、笑いたくなったり……
泣きたくなったり。



コントロール出来ない感情の時間が続いたかと思うと、
いきなり気持ち悪くなって口元を抑えながうずくまる。




「近衛くん、大丈夫かい?」




辛い現状の向こう側、ずっと傍で聞きたかった、
瑠璃の君の声が聞こえる。



瑠璃の君に支えられるように
トイレへと向かう途中、私は……やってしまった。



畏れ多くも、瑠璃の君のスーツを
汚してしまった私はそのまま倒れこんでしまった。 




次に目が覚めたのはホテルらしき一角。
ベッドの上、見慣れない服を着て気が付いた。




確か……菊宮で私……。



瑠璃の君にしてしまった失態を思い出して、
慌てて、ベッドを抜け出した。



「目が覚めたかい?」



ちょうどシャワールームから出てきたらしい
瑠璃の君が、バスローブを巻いたまま姿を見せる。


「あの……私……」

「気分はどう?」

「まだ少し頭が痛いですけど……
 気持ち悪いのはおさまりました。

 あっ…あの……。
 申し訳ありませんでした。

 怜皇さまのスーツ、汚してしまって」


その場に立ち尽くす私。





怜皇さまは、バスタオルで
髪をゴシゴシと乾かしながら
ベッドサイドの椅子へと腰かけた。



「何かお飲みになりますか?」

「頼んでいいのかな?
 冷蔵庫にお酒が入ってる。

 水割り作って貰える?」

「……はい……」




言われるままに、冷蔵庫の傍に言って
入っていたミネラルウォーターとお酒を手にする。


グラスと氷とマドラーを手にしたまま、
その先がわからずに戸惑う私に、
怜皇さまは優しく次の指示をくれた。



「悪いね。

 グラスに氷をたっぷりといれて、
 40mlほどお酒を入れてくれるか?

 その後、13回半ほどかき混ぜてくれ。

 グラスに氷を一つ追加して、
 ミネラルウォーターを注いで、
 また3回混ぜる」


指示されるとおりに手を動かした
生まれて初めて作った水割りを
ゆっくりと怜皇さまの前へと差し出す。



「美味しいよ」



グラスに手を伸ばして、
口に含んだ後、彼はそう口にした。





咲空良もこうやって、
毎晩、怜皇さまに同じように水割りを作ってるの?




「君はお酒は飲ませられないね。

 冷蔵庫にソフトドリンクも入ってあっただろう。
 飲みなさい」




怜皇さまに勧められるまま、グラスに同じように氷を入れて、
フルーツミックスの100%ジュースを入れて戻ってくると、
彼は自分の席を立って隣の椅子を座りやすいように引いて待っていてくれた。


促されるままに、
その椅子に座ると、彼もまた隣に座って
ゆっくりとお酒を楽しみ始めた。


求められるままに、
何度が水割りを作る時間。

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