【B】星のない夜 ~戻らない恋~

17.甘美な時間 -葵桜秋-



咲空良の姿をして言われた通り、
マンションを出て駅前に歩いていく。

駅前の一角。

駐車スペースには、その場所に似合わない
真っ黒な高級車が駐車されている。


心を決めて、その車の方へと足先を進める。



運転席の扉が開いて、
すぐに制服姿の男が後部座席のドアを開けた。



「お帰りなさいませ。
 咲空良さま御用はお済みですか?」


「有難う。

 この車、電話はあるのかしら?
 怜皇……」



何時ものように「怜皇さま」と言いそうになった言葉を
無理やり止めて咲空良の言い方を思い出す。

確か……「怜皇さん」だった……。



「怜皇さんと連絡を取りたいの。
 数日、好きに過ごさせて頂いたしそのお礼を伝えたい。

 後は、外で会いたいのよ……。
 瑠璃垣の屋敷は息が詰まりそうなんだもの」


そう告げると運転手はすぐに
電話操作をして私へと受話器を預けた。


「秘書の東堂さまと繋がっております」



相手を運転手によって確認して、そのまま受話器を受け取る。



「東堂さん、咲空良です。
 数日、勝手なことを致しました。

 怜皇さんとお話ししたいのですが……」


電話の向こう、腰巾着は相変わらずの口調。


職場でも咲空良からの電話でも東堂は変わらないんだ。



そんなことを心の中で思いながら
東堂の言葉を待つ。



「畏まりました。
 怜皇さまをお呼びして参ります」


そう言うと受話器から聞こえるのは、
保留音のメロディーへと変わる。

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