【B】星のない夜 ~戻らない恋~

19.帰宅したフィアンセ - 咲空良 -



入れ替わった翌日の朝、
VIP ROOMから一緒に出た葵桜秋は怜皇さんを送り出して、
私の待つ部屋へと駆け込んできた。




「お帰りなさい。
 葵桜秋」

「ただいま、咲空良。
 咲空良、今度は貴女がVIP ROOMに行って。
 もう少しゆっくりしてから屋敷に帰るっていってあるから」


身につけていた服をその場で脱ぎ捨てる葵桜秋。
葵桜秋の肌につけられた印を見つけて少し目をそむける。




「葵桜秋……ごめんなさい」



小さく呟くと、そのまま脱ぎ捨てられた
葵桜秋が今まで着ていた咲空良としての衣装を身につける。


葵桜秋はドレッサーの前でつけまつ毛をつけたり、
ウィッグを付けたりと出勤準備に忙しそうだった。




次々と姿を変えていく葵桜秋。




素早く変身していく葵桜秋は、
もう私が知る葵桜秋の姿ではなくなってた。



ビシネススーツを着こなして出勤用の鞄を持つと、
キャリアウーマン葵桜秋はデキル女と言わんばかりに
颯爽とホテルを後にした。



葵桜秋を見送ると私はエレベーターを探して
最上階へと向かう。



そこで、葵桜秋からの情報で知る
VIP ROOMのドアを開けた。



テーブルに残された二つのグラス。
シーツが乱れた大きなベッド。





リアルに男と女がこの部屋で何をしていたかが
予測できるこの場所で落ち着いて休めるはずもない。



ゆっくりしろって言われても出来ないわよ。




そのまま30分ほど、ソファーに座って身を小さくして過ごして
ゆっくりと部屋から立ち去った。


部屋に居ても休めない。




喫茶室でモーニングティーを
楽しんで帰ろう。




最上階の部屋から向かったのは、
一階ロビーに隣接している喫茶室。



喫茶室の窓から見える木々を見つめながら
静かにティーカップを口元へと近づける。


フレーバーティーを楽しんで
ゆったりとした時間を過ごすと気の重さも感じながら、
会計の方へと足を伸ばした。

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