【B】星のない夜 ~戻らない恋~

23.ホテル -葵桜秋-



廣瀬 心【ひろせ しずか】の結婚式。

学生時代、咲空良とは仲が良かったけど
私的には、そこまで仲がいいとは思わなかった一人。


誰もが騙される、私と咲空良と入れ替わりゲーム。


それを唯一見抜けてしまう厄介な咲空良の親友。



私的にはその程度の存在だった。


結婚式の招待状すら怪しかった存在のはずなんだけど、
私宛にも招待状は届いた。


返信葉書と投函したと同時にクリスタルホテルの一室を抑えた。



お祝いしてあげたいと心から思える存在ではないけど、
その場所に行くと、新郎となる大東さんの友人である怜皇さまとは会えるはず。



そんな不謹慎な思いから決めた参加。



ドレスアップして向かった会場。
同級生たちと過ごす楽しいひと時。


その時間を一気にさらっていったのは
ロータリーに止まった一台のリムジン。


その車から出てきたのは怜皇さまと咲空良。



怜皇さまがいつものように素敵なのは言うまでもないけど、
咲空良も凄く綺麗だった。



参列した私の印象は、近衛葵桜秋としての私でもなく、
都城葵桜秋としての私。



咲空良と同じ雰囲気を出しながらも、
わざと目立たない平凡さを意識した。



咲空良と同じ時に購入した、水色の京友禅の振袖。



「お姉ちゃん……」


わざと声をかけて、二人の足を止める。


「怜皇さん、こちら私の双子の妹の葵桜秋です」


そう言って咲空良は私を怜皇様へと紹介する。
 


怜皇様は、私を見て少し戸惑った表情を見せたものの
次の瞬間、「瑠璃垣怜皇です」っと他人行儀な挨拶をした。


この場所には、私も咲空良もいる。
彼が咲空良ではなく私を選んでくれたら。

近衛葵桜秋ではなく、都城葵桜秋としての私で
気がついてくれたら……。

淡い期待がこみ上げるもののすぐにその思いに蓋をした。



殆ど怜皇さまとの距離を縮められることなく過ぎていく時間。



退屈な挙式。
退屈な披露宴。



ご祝儀ばかりが嵩んで、楽しくもなんともない窮屈な時間を過ごして、
肩を落としかけた時咲空良の後ろを歩いていると怜皇さまが咲空良の傍で告げた。



『咲空良、最上階のいつもの部屋をおさえてる』




怒りに声が震えた。





怜皇さまが選んだのは私じゃなくて、やっぱり咲空良。



その時間に貴方の傍にいるのは私なのに……。




そして許せなかったのは、
咲空良の表情。






いつもは不安そうに表情を曇らせる咲空良が
今は怜皇さまの誘いを受けて嬉しそうに微笑み返した。





見逃すわけないでしょ。




最初に咲空良が望んだことだもの。

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