【B】星のない夜 ~戻らない恋~

18.狭間 - 葵桜秋 -



咲空良と葵桜秋。


二人の私を演じるようになって半年以上。



咲空良として怜皇様と過ごす時間は、
甘く優しい。

葵桜秋として怜皇様と過ごす時間は
さっぱりしている。





どちらも私が感じているのに、
どちらも同じ時間ではないのは、
私が咲空良自身ではないことを
知っているから。






怜皇様の初恋。



その初恋の相手の名は、
都城咲空良【みやしろ さくら】。



だけどその咲空良は、
入れ替わっていた私自身。






私が私として、都城葵桜秋【みやしろ きせき】として
あの日、貴方の前に立っていたらそれでも怜皇様は、
私に恋をしたって言ってくれましたか?








私は葵桜秋?


それとも咲空良?






どちらが偽りで、どちらが本当の私かなんて知ってる。



私が一番知ってる。






それでも……一度解き放たれた欲は、
抑えることなんて出来ないの。




心の中に救い続ける悪魔は
今日も囁き続ける。





『奪っちゃいなよ。

 君は咲空良。
 
 それは咲空良が
 昔から望み続けたことだよ。

咲空良の願いを叶えてあげたらいいんだよ。

 君は葵桜秋自身はどうだっていいんだから』




葵桜秋として私の理性を必死に守ろうとしてた
半年前の私は、もうこの場にいない。





葵桜秋として仕事が終わって、
怜皇さんと共に何度も夜を共にしたホテル。




そのホテルは瑠璃垣の系列ホテルではあるけれど
咲空良として抱かれる、あのホテルの一室ではない。



葵桜秋としての私では、
決して、一線を越えることが出来ない壁。




だけど……咲空良だと信じ続ける怜皇さまは、
あのVIP ROOMで、何度も何度も、
咲空良の名を紡ぎながら私を抱き続ける。




このまま彼の首を絞めて、
この息を止めさせてしまえば……
彼は私のものになる?





SEXの後、穏やかに眠り続ける彼の首元に
そっと両手を伸ばすものの、どれほど手を巻きつけても、
そのまま力を込めることなんて出来ない。



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