【B】星のない夜 ~戻らない恋~




それもまた……私の甘さ。




こうして彼に触れられる、
彼を感じられる時間が愛しいから……。





この世界から彼を奪ってしまえば、
私はこの快楽を感じることはもうないのだから……。





咲空良として過ごすホテルの夜を思いながら、
一人、自宅のベッドで自分自身を慰める時間。





フルフルと震える体は、それには到底及ばないけれど……
それでも彼を感じていられる時間だけは
私の心を安定させてくれた。





シャワーを浴びて、
出てきた頃、カレンダーを見つめる。





今日は、彼が出張から帰ってくる。

明日は、プロジェクトの会議だから
葵桜秋として怜皇様にあえる。




葵桜秋として、職場では逢える。





その後、怜皇様はどうするの?

帰宅して咲空良と?

葵桜秋の私と過ごしてくれる?





布団に転がりながら、
電話をするのは、咲空良の携帯。





何度目かのコールがなった時、
赤ちゃんの泣き声をバックに咲空良の声が聞こえた。




「もしもし、葵桜秋。
 どうかした?

 あっ、紀天……きゃっ」



電話をしながら心【しずか】の家に居るらしい
咲空良は何やら電話の向こうではしゃいでる。



『あららっ。

 元気になってくれたのはいいけど、
 元気すぎるわね。

 紀天のお尻、綺麗にしないと……。

 咲空良、後はやるから電話に集中していいわよ』


「うん。

 ごめんねー、紀天。
 ママ来てくれたからね」



私との電話にはお構いなしで、
今も向こうの会話を続ける咲空良。



「ごめんごめん。
 葵桜秋、電話何だった?

 紀天が、うんち頑張っちゃって。

 おむつ交換、格闘してたら
 今度は噴水されちゃって。

 でも赤ちゃんって可愛いよね。

 私も……欲しいなーって、
 最近思うようになったんだ」




何気なく呟いた咲空良の言葉が、
やけに耳にイラついた。



「咲空良、明日怜皇さまはどうなるの?
 帰ってくるでしょ?」

「どうだろう。

 明日、こっちには帰ってくるのよね。

 メールは入ってきたけど家に帰ってくるかは、
 まだ連絡貰ってないよ」





咲空良はそうやって答えたけど、
咲空良の言葉すら素直に信じきれなくなってる私。

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