音匣マリア
「ナイトフェアは24日の夜だっけか?ぶっちゃけ書き入れ時のくそ忙しい日に、ナイトフェアなんか出たくなかったからな。替わってくれるんならありがてぇ」


そうなんだよな。24日の夜なんて夜の商売はどこも忙しいに決まってる。


昨日は菜月に「逢いたい」とは言ったものの、デートなんてできるわけがないから、できれば俺の店に呼ぼうと思ってたんだ。


だが中井さんとフレアショーの担当を替われば、堂々と菜月に逢いに行ける。


そん時ちょっと時間をみつけて、菜月にもう一度言ってみよう。


まだ菜月は、俺の事を許せないかも知れないけど……。



「……お前さ、なんでナツと拗れたの?瀬名さんの話だとお前が浮気したとか言ってたけど」

「それは中井さんには関係ないんで」


必要以上の詮索はしてほしくない。

特に中井さんは菜月の兄貴の笥乃さんと仲良いし。


「こないだよ、瀬名さんの娘ってのに会ったんだがよ、あの娘は要注意だな」


あの馬鹿女か。すっかり忘れてたけど、何かまた企んでんのか?


「その女、何か言ってましたか?」


中井さんは考える風だったが、紫煙とともに徐に口を開いた。



「……ナツを潰したいつってたんだよ。俺の前でな」


性懲りもなく菜月に嫌がらせしたいってか。どこまで自己中?マジでムカつく。


「あの娘、お前のマンションの隣に住んでるんだって?それでお前とナツが拗れたのか?」


まあ、それもあるけど……。


「……一番の原因は、俺の不甲斐なさ…です。菜月には悪いことして苦しめてるって……反省してます……」


抱きしめただけで、俺を突き飛ばした菜月。


電話で聞けば、まだ俺の誕生日の夜のトラウマに悩まされているみたいだ。


「ナツは俺にとっても妹みたいなもんでな。瀬名さんの娘にハッキリ言ってやった。『お前ぇみてえな性格ブスが』ってな」


あ?なんて事言うんだこの人は。俺もそう言ってやりたいけど。言い出したら止められそうに無いからやめとくけど。


「瀬名さんの前で、ですか?」

「おうよ。瀬名さんも目ぇ丸くして見てたけどな」


そこまで言えたら逆に気持ちいいわ。俺もやってみてぇ。


「……けどな、お前も好きな女一人幸せにしてやれねぇで、一端気取ってんじゃねぇぞ。これ以上ナツを苦しめんな」

「………はい……」



中井さんの言葉は胸に響いた。


菜月を幸せに。


それは、俺の幸せでもあるんだから。







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